12月………クリスマスや正月に向けてゆっくりと街が騒ぎだす季節。
劇王に向けて稽古をしていくなかで、ふと去年の劇王の事を思い出す事が多くなった。
(あの時はなんかじっとしてられなかったんだよなぁ……)
━━━2019年 第7回劇王。私は照明としてまんまるチームに参加していた。
予選が終わり、休憩の後の決定戦を待つまでの間。
まんまるチームは決定戦に出ることが出来ず、後は控室で決定戦を見るだけとなった。
そんな中私はぶらぶらとシアターねこ近くの通りを歩いていた。
予選の時の結果から敗者復活枠で決定戦に行けるだろうと思っていた自分は、予想が外れもやもやした気持ちを紛らわしたかったのだ。
(もうどのくらいの作品も一回観てるし、あのまま控室に居るのも落ち着かないしな)
そのままだらだら宛もなく進むと松山城ロープウェイ乗り場が見えてきた。
(松山城か……何度も松山に来たけど行った事なかったな……よし!)
一つ決心するとそのままもと来た道を引き返す。
そう、どうせなら歩いて登ってみよう。と考えたのだ。
途中までは審査員の講評や、負けた悔しさなんかが頭の中をぐるぐると回っていたが、歩みを進めていく内に自然とそれらは消えていった。
代わりに自然とある思いが心に満ちていった。
(………しんど!!!帰りは絶対ロープウェイにしよう!)
最後の方はもう頭が回らなくなっていたが、何とか一番上まで登ることができた。
空はあいにく曇りだったが、そこは松山の街並みを一望できる素晴らしい景色が広がっていた。
(おおーさすがに凄く良い眺めだなぁ)
上着を脱ぎ、火照った身体を冷ましながら色んな所を眺めているとアイスクリームを売っている売店を見つけた。
これは渡りに船とばかりに売店に向かいメニューに目を通す。
(伊予かんのアイスもあるのか……大分惹かれるけど今はこっちかな)
少し迷ったがつぶ餡の乗った抹茶のアイスを買い見晴らしのよいベンチへ腰かけた。
ぺろり
まずは一口。火照った身体に季節外れのアイスが心地よい。
パクっ
付いていたスプーンで餡を掬い口へ運ぶ。疲れた身体に優しい甘さが染み渡っていく。
ひゅうー
少し肌寒い風を感じながら目の前の景色を眺める。
パクり
甘い餡の後だとより引き立つ上品な苦味が頭の中をスッキリとしてくれる。
普段はあっという間に食べてしまう私だが、この時はとてもゆっくりと時間を掛けながら食べていた気がする。
そしてだんだんハッキリしていく頭の中で一つある思いに気付く。
(やっぱり自分役者で劇王出たいんだな)
さっきまでのもやもやは完全になくなっていた。
ロープウェイ乗り場から出てシアターねこへ帰る登り道。
来た時よりも軽い足取りで進みながら一つ決心をする。
(よし!来年は役者で劇王に出てリベンジして、伊予かんのアイスを食べよう!)
心の中で新たな野望の炎を灯しながら、劇王が決まろうとしているシアターねこへ向かったのだった━━━━
(ま、今年も役者では出れないのだけどね……)
とはいえあの日灯った炎は消えてはいない。いつか実現するその日まであのアイスの味と共に心に残っていることだろう。
今年も照明としてまんまるチームに参加しております。見に来る方もそうでない方も、是非応援よろしくお願いいたします!