これは、芝居と食に命を懸けるまんまるの漢達の情熱の記録である。
あらすじ
元来食の好みも食べる量もジジイのそれと言われる善良な愛媛県民・忽那は、
徳島に行く度、まんまるの漢達に無謀とも思える食事(漢飯)に誘われ続けている。
稽古と移動で身も心も枯れ果てた忽那の胃袋を漢飯は容赦なく傷つけ、
徳島に行く度幾度となく繰り返されるその地獄の苦しみから、
いつしか忽那は、徳島県をこう呼ぶのであった。
――煉獄、と。
今回の登場人物
丸山(38):
座長。漢飯界の熱き闘将。ありとあらゆる漢飯に狂ったようにトッピングを行う狂王。漢飯はなんでも写真に収めるマッドコレクター。ちょいポチャ。(写真左)
しんせい(23):
ヤングライオン。漢飯界のトリックスター。ラーメンに目がない。8人で飯食いに行くのにほぼカウンター席しかないラーメン屋に行こうと言い出す。恐らく8人横並びで座ることになっても一切気にならないのだろう。勿論漢飯は写真に収める。中肉中背(写真中央)
忽那(33):
俺。漢飯界永遠の補欠。出された漢飯には頑としてなにもトッピングせず少しでも食べる量を減らしにかかる。料理を写真に収める人間の心理が微塵も理解できない。ヒョロガリ。(写真右)
――2020年11月某日
四国劇王前、最後の稽古日となったその日、忽那は勿論徳島にいた。
最終稽古日ではあったが参加メンバーは丸山、忽那、しんせいの3名のみ。
そのため早めに稽古を切り上げるのであった。
丸山「今日の稽古はこれまで。」
しんせい「がるるるる」
忽那(ああ、今日は早めに愛媛に帰れそうだ…人数も少ないし、今日は漢飯には行かずこのまま解散の流れかな…)
丸山「よし、じゃあ晩飯食いに行くか」
しんせい「がるるるる」
忽那(やはりそう簡単には帰らせてくれないか…このあと運転しなきゃだし、ビールが飲めない状態での漢飯は非常にキツい…ビールがあったからこそ乗り越えられた危機が今まで幾つあったろう…)※「つけ麺AS〇HI編」参照
忽那(叶わぬ願いと思いつつも、軽食といった、適量で、脂っこくなく、胃腸に優しい料理店を選んでくれないだろうか…)
丸山「今日の晩飯は…『豚〇家』だ!」
忽那「豚の〇…?」
忽那(名前から察するに絶対濃い系漢飯だ…)
しんせい「二郎系ラーメンふぉおおおおおお!!!!」
忽那(噂に名高い二郎系か…食べたことないが絶対に忽那の食の好みと相反することは想像に難くないな…)
忽那・地獄の漢飯「豚〇家編」
忽那(ここが豚の〇か…外観はおよそ二郎系ラーメンとは思えぬ美しさ…)※忽那の二郎系ラーメンのイメージ=漢共がこぞって列をなす汚くて臭くて床とかテーブルとか油でギトギトでラーメンはもっとギットギトしてるラーメン屋※主観且つ想像です
土地の者ではない忽那に詳細な場所はわからないが、それほど栄えているとは思えない場所にその店はあった。
控えめな立地とは裏腹に店の前には煌々とLEDライトが輝き、不必要とさえ思えるサイズの看板に不必要とさえ思える大きさで「豚〇家」と書かれている。
忽那(店の前にチラシが貼ってある…どれどれ…なるほど、9月にオープンしたところなのか…だから綺麗な外観なのか…先日のAS〇HIといい、徳島は今ラーメン屋新規オープンブームなのか…?)
店内に入るとカウンターが10席程度並び、奥にはテーブル席が見える。
まだ夕方とも呼べる時間ではあるがそこそこの賑わいを見せている。
忽那(さて、問題はメニューだ…初めての二郎系ラーメン、所謂二郎童貞であり食の細い、更には周りに流されやすい俺だ、メニュー選びには時間をかけ、細心の注意を払わねば…)
店員「いらっしゃいませーまずはこちらで食券をお買い求めください」
忽那(なん…だと…?食券システムだとォーーー!?!?う、迂闊…!食券を買わなければ席に座ることも許されないのか…!食券システムとはすなわち、後ろに客が並べば熟考することも許されない強制横スクロールシステム…!!券売機の前でメニューを決めるなど愚の骨頂…!勝負は店内に入る前から始まっていたというのか…!こ、これはまずい…!前に並ぶ座長が食券を買っているわずか寸瞬間でメニューを決めるしかない…!)
丸山「えーと、これとこれとこれとこれとこれと…(ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」
忽那(は、速いィーーー!!!)
忽那(それよりも何枚押してんだこいつはアーーー!!!理解不能理解不能理解不能理解不能…!ラーメン屋でそんなに注文することあるのか…!?メニューを決めるスピードといい全くもって理解不能…!これが、漢飯界の闘将と呼ばれる漢の実力…!)
忽那(はっ…!?しまった…!しんせいが珍しく俺よりも後ろにいる…!この並びは…!?次に食券を買うべきは俺…!?やばい…!あわよくば軽めのもので済まそうと思い、まだなにもメニューが決まってないぞ…!どうする…!?そもそもどんなメニューがあるのかも把握できていない…!!)
しんせい「がるるるる」
忽那(やばい…ラーメンキ○ガイのしんせいが飢えと期待と寒さの余り、店の狭さも相まって俺のパーソナルスペースを無視して悪質タックルすれすれに近づいてくる…!無言の圧力…!!だめだ、ゆっくりメニューを吟味する時間は…皆無…!仕方ない、恐らくこの店のモストポピュラーと思われる〇〇ラーメンにしておくか…)
忽那(ぴっ)
しんせい(ぴっ)
忽那(こいつも速い…何故こうもまんまるの漢達はメニュー決定に迷いがないのか…!)
テーブル席へ案内される2人の漢と1人の忽那。
忽那(テーブル席か…よかった…カウンター席だと何故か急かされる気分になってしまうのは俺だけだろうか…)
忽那(そんなことより食券システムに驚きのあまり店員さんの可愛さチェックを失念していた…どれどれ…ふむ…まずまずといったところか…私服を着るとバケるタイプとみた…)※主観です
店員「野菜とニンニク、アブラはどうされますか?」
しんせい「すべてマシで」
店員「かしこまりました、(食券を見て)混ぜそばのお客様はすべてマシマシですね」
丸山「はい」
店員「かしこまりました」
忽那(な、なにを言っているんだこいつらは…!?サラっと喋っているが言ってることが何一つ理解できない…!…まだエストニア語の方が理解できるぞ…!?)※ ウラル語族・フィン・ウゴル語派・バルト・フィン諸語に属する言語
店員「○○ラーメンのお客様はどうされますか?」
忽那「あ、え、えーと…」
忽那(だめだ、わからん…どう答えればいいんだ…マシってなんだ…増しってことか…?そうなのか…?大体野菜とニンニクはわかるがアブラってなんだ…!?サラダ油か…!?ごま油か…!?オリーブか…!?ラーメンに…!?いれるのか…!?油を…!?そもそも野菜を増してどうなるんだ…?そもそもなんの野菜なんだ…?キャベツか…?もやしか…?たまねぎか…?わからん…ニンニクはどうなんだ…?スタンダードな状態ではどの程度入ってるもんなんだ…?多いのか…?少ないのか…?ニンニクは確かに好きだし精力にもなる…増すべきなのか…?増さないべきなのか…?それによってどの程度味が変わるもんなんだ…?座長としんせいはマシてたが追随していいものなのか…?普通はマシするものなのか…?そもそも普通ってなんだ…?この世に普通なんてあるのか…?そんなもの幻想じゃないのか…?もうわからん…なにもわからないよ…)※混乱の極地
店員「どうされますか?」
忽那「あ、えーと、じゃあ、その、モストポピュラーな感じで適当に…」
店員「…はい?」
忽那(はい?って言われた…!店員さんに、なんだこいつ的な感じで、はい?って言われた…!!)※店員に嫌われたくない男・忽那
忽那(そりゃそうだよ…!なんだよモストポピュラーって…!ルーか…!?俺はルー大柴か…!?店員さんもポカンだよそりゃ…!!)
忽那「あ、えと、その、普通に、全部、普通にお願い、します…」
店員「かしこまりましたー」
忽那(普通で通じた…でも結局普通がどの程度なのか何一つわからん…!恐ろしい…一体どんなラーメンが出てくるのか恐ろしい…何故ラーメンを食うだけでこんなに緊張しなければならないのだ…)
丸山(ウズウズ)
しんせい(ウズウズ)
忽那(例によってウズウズしている…)
暫くしてーー
店員「お待たせしましたー」
忽那(な、なにィーーーー!!!!)
忽那(め、め、麺が見えない…!?なんだこの堆く積まれたもやしは…!?俺は間違えてラーメンではなくもやしを頼んでしまったのか…!?そして圧倒的存在感のチャーシュー…!!)※例によって写真はない
しんせい(ぐちゃ…ぐちゃ…)
忽那(な、なるほど、混ぜるのか…この堆く積まれたもやしとチャーシューの下に麺があるんだな…)
丸山「混ぜて、チャーシューをスープに漬けておけば暖かくなるよ」
忽那(納得…!圧倒的納得…!!最初から具が浸かる程度にはスープをいれておくか、最初からスープに浸かるほどの具に留めておくかすればいい話だが、さすがは座長…!心得てやがる…!どれどれ…)※ぐちゃ…ぐちゃ…
忽那(…………!…………!?………)※絶句
忽那(…これほどとは…混ぜるたび寄せては返す圧倒的な麺の量…そして例の如くうどんと見間違うばかりの麺の太さ…底の見えない程にギラついてドロついたスープ…これでもかと言うほどに匂い立つ量のニンニク…謎のアブラでテカりまくるもやし…)
忽那(一目でわかるこの絶望感…!これで普通だと言うのか…無理だ…俺には無理だ…食えぬ…今日はビールで流し込むこともできない…絶望だ…)
丸山(ズルズル)
しんせい(ズルズル)
忽那(平気な顔で食ってやがる…そりゃそうか…この2人は俺とは根本的に違う生き物…『漢』…そう、漢なのだ…所詮俺のようなナヨついた男だか女だかわからんヒョロガリには到達できぬ境地…すいません、座長…すまん、しんせい…これから劇王に向け、劇団が一層心を一つに団結しなければならないこの時期に…不肖忽那は…ギブアップを…)
??(ズルズル)
??(ズルズル)
忽那(…!?)
豚○家のテーブル席は2つのみ。
まんまるの陣取るテーブルの隣りには女子大生と思われる2人組がいた。
その可憐な見た目と華奢な身体のどこに吸収されているのか、談笑を交えながら、地獄の底より来れり悪魔の料理を豪快に食べて魅せる彼女達。
忽那(女だてらにすごい食いっぷりだ…こんな、年端も行かぬ若い娘に…劇団まんまるの救世主・忽那が負けるわけには行かぬ…!!!)※自称
忽那「うおおおおおおお!!!!」
忽那の地獄は続く――※男の意地で完食しました
おまけ
※途中三途の川が見えた忽那