まんまるのエイドリアン・ヴァンデンバーグこと忽那です!

どうも!

まんまるのエイドリアン・ヴァンデンバーグこと忽那です!

もはや忽那の宣伝用ブログと成り果てた当ブログですが、たまには宣伝以外のことも書こうと思います!

 

みなさんには、面白かった記憶はあるけれどタイトルも著者名も思い出せない、そんな本がありますか?

私はあります。

その本はもはやタイトルどころかストーリーすらも忘れてしまったのですが、読後に不思議な余韻を残すことと、表紙に深い緑の森に佇む1人の少年が描かれていたことだけは確かに思い出せる、そんな一冊なのです。

 

先日、松山市に数多ある某大型書店で雑誌「BURRN!」(※1)を立ち読みしていた折、突然背後より面妖なジジイに話しかけられました。

「本を探しているのですが」

聞き取りづらい嗄声をほとんど残ってないであろう歯の隙間から零れるように出すそのジジイの汚さたるや筆舌に尽くし難く、敝衣蓬髪、濁った眼、曲がりに曲がり切った腰、まさしく胡乱の者に相違なく瞬時に私の本能は面白そうなジジイだと判断しました。

そもそも何故店員ではなく私服がチンピラそのものと称されること幾星霜、見知らぬ土地で道を訊ねるなら誰ランキングで最下層に揺蕩う私に声をかけたのか。IT化の象徴たる検索機だってある。

そんな疑問もありましたが、もしかすると見るからに落ちぶれたこのジジイも壮年の時分にはバリバリのギタープレイヤーであり、だからこそ時流を遡るこんな雑誌を読んでいる私にシンパシーを感じ、声をかけたのではないか。

思えば、かのインギー(※2)だって老いてみれば小汚いジジイにしか見えない。

私は答えました。

「どんな本ですか」

「それが、タイトルがわからんのです」

「はあ、作家は誰ですか」

「それもわからんのです」

クソジジイめ。どないせいっちゅーねん。

苛立ちを抑え、私はジジイとともに広い店内を彷徨う旅に出ました。題も著作もわからぬ一冊の本を求めて。

「どんなストーリーなんですか」

「わかりません」

「主人公はどんな人物ですか」

「わかりません」

まさに前途多難。

1987年、強大な悪を打ち倒すべく様々な障害に見舞われながらもエジプトの旅を続けたジョースター一行も斯くやあらむ至難の道程です。

「なにも覚えていないのです。しかし確かに面白かったという記憶だけがあるのです。ただ―――」

「ただ?」

「表紙に」

「表紙」

「深い森の中に1人ぽつんと佇みこちらを見つめる少年が、表紙に描かれておりました」

「―――?」

私は突然、得体の知れぬ懐かしさに襲われました。

私も見たことがある。

色とりどりの緑の森。

ただ1人佇む少年。

静けさと温かさ、そして少しの切なさを感じるその表紙を。

私も読んだことがある。

内容はまったく覚えていないものの、幼年の時分にのめり込んで読んでしまう面白さと表紙同様暖かな気持ちと寂寞の余韻を残す読後感。

確かに、読んだことがある、私も。

絶対に近い確信がありました。

読んだことも忘れてしまっていた、タイトルも、著者名もわからない、けれどいつかの私が夢中になって読んだその一冊を、このジジイは探しているのだ。

そうして私とジジイは手分けして店内を隈なく、何時間もかけ、一冊一冊確かめるようにその本を探し歩きました。

 

結局その一冊は見つかりませんでした。

そしていつの間にかジジイも居なくなっていました。

手分けして捜索している間に、途中で飽いたのかそのまま帰ったのでしょう。

クソジジイめ。

私は一頻りジジイを探した後、書店を後にしました。

 

今となっては果たして私はその本を読んだことがあるのか、そもそもそんな本がこの世にあるのか、その事実や存在すらもあやふやとなりました。

いつしか私はあの日、記憶の中にある一冊の本へ覚えた懐かしさをそのジジイに重ね合わせ、今も尚、その本とジジイを探しています。

もしみなさんが、森に佇む少年が表紙に描かれたその本を見つけることができたら、忽那にご一報ください。

ジジイは別に探さなくてもいいです。

注釈

(※1)時代に逆らい頑なにハードロック/ヘヴィメタルのバンド及び楽曲を紹介し続ける漢気溢れる音楽情報系専門月刊誌。

時流と空気は読めないが雑誌は読めるギターオヤジがよく立ち読みしている。

 

(※2)イングヴェイ・マルムスティーンの愛称。ヘヴィメタル界を代表する往年のギタリスト。二つ名は「王者」。

そのとんでもない速弾きは世界中のギターキッズを脳死させた。

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