どうも!
まんまるのアンディサマーズこと忽那です!
みなさんには、面白かった記憶はあるけれどタイトルも著者名も思い出せない、そんな漫画がありますか?
私はあります。
その漫画はもはやタイトルどころか著者名すらも忘れてしまったのですが、エログロナンセンスの中に人間の本質を鈍く光らせる、そんな一冊でした。
私がまだ学生だった時分、自身の劇団(※1)を立上げ知名度に於いては路傍の石コロにも劣るその名を世に知ら占めんことに躍起になっておりました折、なによりも金策に倦み、そのため日夜アルバイトに励み、にも拘わらず得た金は女に貢ぎ、本業である学業と芝居を疎かにしてしまう有様で、劇団はまさしく開店休業、私は途方に暮れておりました。
そんな金も時間もない私に格安で、しかも深夜まで舞台を貸し出してくれる小劇場がありました。
その小劇場は小劇場と呼ぶにも輪をかけて小さく、大阪の街を南北に貫くメイン通りの、裏路地のそのまた裏路地にある小汚いエロビデオ屋を曲がったそのまた裏路地にあり、一見すると木造民家にしか見えないがその実、民家を改装して造られた劇場であり空き家と空き家に挟まれ窮屈そうなその間口はおよそ3間といった様態。
2階建てであり1階はあまりにも狭い舞台と客席、それをより圧迫せしめるBarが併設されており、その業務形態からマスターと呼ばれる劇場主は、大阪アマ劇団の天下を獲ると息巻く若輩者の、虫の糞にも劣る演劇論を黙って聞いてくれる心優しきおっさんであり、劇場の2階に住んでおりました。
Barの営業時間は深夜に及ぶため稽古場も自ずと深夜まで借りることができ、マスターは稽古および公演用に舞台を安い値段で貸し出しつつ、稽古後および公演後の劇団員を併設するBarでしこたま飲ませ酒代を分捕り、安く若い演劇論をいつまでも語らせてくれる私にとって楽園のような場所でした。
ある日、いつものように管を巻いて次回公演の内容をだらだらとしゃべり続ける私にマスターは
「これ、面白いで。次の公演の参考にしい」
と、一冊の漫画を手渡してきました。
今となってはそのタイトルも、著者もわかりませんが、絵柄やストーリーから昭和の匂いがぷんぷんしていたことだけは覚えています。
またその漫画は所謂短編集であり、酔いの回っていた私は最初の話だけを読みました。
その話の内容は、夏の暑い日、とある団地に犬と住む未亡人の元に怪しげな刑事を名乗る男が現れ、先日飛び降り自殺をした男の死の真相を探る上質のシチュエーションサスペンス漫画でした。
その後劇団は忽那の夢と共に解散し、逃げるように愛媛県へ移住、マスターの助言も虚しく次回公演を打つ機会は永遠に失われてしまいました。
私は今でも時々、毎日が楽しく、それでいて常になにかに追われているような焦燥感を感じ続けたあの大阪での日々を思い出します。
そのとき必ずあの小劇場とマスターの笑顔、そして途中で読むのを辞めてしまった上にタイトルも作者もわからないあの短編集漫画のことが頭を過ります。
夢破れた後、私の尻を猿猴と見紛うばかりに赤くなるまで叩きまくる現実はそれはそれで楽しいものですが、未だにあの日々を夢見る私も是又現実です。
夢の続きを生きることは叶いませんが、あの漫画の続きを読むことならできるかもしれない。
もし皆さんがその漫画に覚えがあれば忽那にご一報ください。
※1 劇団シカスカル。忽那の夢だった自前劇団。その夢は団員と共に忽那だけを置き去りにし東京へと旅立った。