【特別企画】演劇ラボ・アンクラウン『沈黙の牙』主演・慶徳インタビュー

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物言わぬ獣たちの叫び

徳島県吉野川市の鴨島公民館で、演劇ラボ・アンクラウン第3回公演『沈黙の牙』が上演される。
原作はロバート・ルイス・スティーブンソンの名作『ジキルとハイド』。
作・演出の伊井ひとみが、古典文学の持つ倫理と狂気を現代を描く縮図として立ち上げる意欲作だ。

主演を務めるのは、劇団まんまるの慶徳。
普段は舞台裏で劇団のサポートを担い、活動してきた。
近年まんまる作品にはほとんど出演していない彼が、今回久しぶりに本格的に“表舞台”へと立つ。
そして同作には、座長の丸山裕介も出演。
互いに20年来の親友でもある二人が、同じ作品に名を連ねるのは、劇団まんまるの歴史の中でも特別な出来事だ。

主演として、どのように役作りを進めたのでしょうか。

慶徳:原作が『ジキルとハイド』ということで、まずはきちんとその世界に触れようと思いました。
家内にすすめられて古典の翻訳本を読んだんですが、これが本当に深かった。
「善と悪」みたいな単純な構図ではなく、人間の中にある矛盾とか、理性と衝動のせめぎ合いを描いているんです。

そこから「沈黙」というテーマを自分の中でどう掘り下げるかを考えました。
声を荒げず、動きすら抑えながら、どうやって“牙を研ぐような静けさ”を出すか。
稽古が始まる前の7月から少しずつ準備していたんですが、その頃は丸山が全然稽古に来なかった。
だから逆に邪魔されず、自分なりの“沈黙の形”を探す時間が作れました(笑)。
裏方として光を当てる側にいた時間が長いからこそ、今度は光を浴びる人間の気持ちを冷静に観察できた気がします。

アンクラウンの現場は初参加とのことですが、劇団まんまるとの違いは?

慶徳:180度違いますね。
まんまるは自由度が高くて、その場の勢いや空気を大事にするタイプ。
でもアンクラウンは最初から世界観の温度が決まっていて、全員がその“色”の中で呼吸している感じです。

特に印象的だったのが、世界観を守るため、“NGワード”があること。
最初は「そこまで徹底するの?」と思いましたが、その制約が逆に集中力を生むんですよ。
まんまるでは「自由に遊ぶ」芝居が多いけど、アンクラウンでは「決められた型の中で遊ぶ」感覚。
その違いがすごく新鮮で、舞台人としての幅を広げてくれました。
稽古の終盤になる頃には、自分の呼吸のリズムまでもがこの作品“沈黙の牙のリズム”になっていた気がします。

共演陣や、丸山座長との関係について教えてください。

慶徳:みなさんの熱量がすごいです!
今回の座組の皆さんは、一言一言のセリフに自分の人生を乗せてるような芝居をする。
その真っすぐさに毎回圧倒されます。

そして、丸山とはもう20年来の付き合いです。
学生時代からずっと一緒に舞台をつくってきた仲で、気づけば人生の半分以上を共有してる。
ただ、今回は直接一緒に舞台に立つシーンがないんですよ。
でも、袖から見ていても「彼がいる」という安心感はすごくある。
親友であり、座長であり、ライバルでもある──そんな関係で創作できるのが嬉しいです。
同じ作品の空気を吸っているだけで、言葉にならないものが伝わる瞬間があるんですよね。
あと、稽古は最後まであんまり来なかったですね。

見どころや、お客様へのメッセージをお願いします。

慶徳:ぜひ御覧ください。
キャスト全員のビジュアルの力がとにかく強いです。
舞台上に並んだ瞬間に世界が立ち上がるし、細部まで“沈黙の牙”の世界が完成している。
個人的にも、これまで裏方中心だった自分がここまで前に出るのは初めてで、
まんまるの仲間たちにも「いつもと全然違う慶徳」を見てもらえると思います。

この作品は、人の心にある“言葉にならない感情”を描いています。
誰の中にもある静かな怒りや痛み、そして希望。
それらを、内包しながらこの世の中でどう生きるか──。
それを、観客のみなさんに感じ取ってもらえたら嬉しいです。
どうぞ、劇場で体感してください。

公演情報

演劇ラボ・アンクラウン 第3回公演『沈黙の牙』
原作:ロバート・ルイス・スティーブンソン『ジキルとハイド』
作・演出:伊井ひとみ

公演日時:
2025年11月8日(土)16:00
2025年11月9日(日)13:00/17:00

会場:
鴨島公民館(徳島県吉野川市鴨島町鴨島1)
JR鴨島駅より徒歩10分

チケット:
前売 ¥1,000/当日 ¥1,500
ご予約はこちらから!

出演:
慶徳(劇団まんまる)/中野遼太/齋藤定彦/須見一男/福家正洋/丸山裕介(劇団まんまる)/伊井ひとみ/森脇健一郎/暁月セイラ(bell声優ゼミナール)/AYUMI/田月みしろ/治弥かがり/にしおか/大木茂実(todokeru,)/小野寺大貴/Studio Camellia.


沈黙は、時に最も雄弁だ。
慶徳が体現する“沈黙の牙”は、私たちの内に潜むもう一つの声かもしれない。
その声に耳を澄ませるために、劇場という“静かな戦場”へ足を運んでみてはいかがだろう。

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