﹙さて…早く起きてしまった訳だが……﹚
とある午後4時前。昼夜逆転の生活をしている私にとっては早すぎる目覚めだ。二度寝しても良いのだが、今日は仕事前練習がある。
﹙二度寝して腹ペコのまま練習→仕事はしんどいしもう起きちゃうか﹚
なんて考えながら布団の中でゴロゴロしている。いくら太っていて寒さに強そうでも冬の布団から出るのは中々勇気がいるのである。
しかし体の一部はそんなの関係ないと言わんばかりに『ぐるる』と鳴り、主張を始めてくる。
﹙……あー、いかん。何か食べに行くか……﹚
のそのそと布団から這い出るとそのまま着替えを済ませ外へ。空を見上げると暮れ始めた曇り空というなんかもの悲しい空をしていた。
﹙うーん、なんか今日は変わった物を食べに行くか﹚
そう思って考えを巡らせる。その時少し前に英くんと話したお店を思い出す。
﹙あーあそこまだ開いてるかな?﹚
そう思いながらペダルを漕ぐ。そのペダルはいつもより重いきがした。
﹙おっ、まだ暖簾出てるし大丈夫だな﹚
いつも前を通る時はだいたい閉まっていたそのお店はその日は見事に開いていた。
つけ麺ぼうず
夕方から夜にかけて店の前を通るとほぼいつも閉まっていてずっともう潰れてしまった店だと数年間思っていたお店。少し前に英くんに一度行ってみて欲しいと言われてまだやっていたのを知る。
﹙なるほど、麺が切れたらそこでおしまいなお店だったのか﹚
開いていなかった理由に納得しながら券売機の前に立つ。メインはラーメン二種とつけ麺のみ。後はサイドで味玉と肉とご飯。何ともシンプル。
﹙ぬぅ……これはかえって悩むなぁ。でもやっぱりここは……!﹚
つけ麺とご飯のボタンを押す。食券を持ってカウンターに着く。食券を渡し出された水を飲みながら物思いに更ける。
﹙あー、ご飯は余計だったかな……こんなんだから中々痩せないんだよなぁ……﹚
なんて少しネガティブになると最近身の回りであったもやもやが次々と頭の中に浮かんでくる。
仕事、舞台、将来、社会問題……自分のせいの事から全く関係ない事まで、勝手に連想してどんどん気分が沈んで―――
「お待たせしました。つけ麺とご飯ですー」
目の前に現れたつけ麺にハッとする。そうだ、とりあえず今は食べよう。
﹙ちゃんとしたつけ麺は二回目なんだよなー﹚
前に食べたのは確かトライさんとの合同公演の練習の帰りに高知で食べたのだったか。なんて考えながら麺を掬いつけ汁に浸し口に運ぶ。
﹙あぁーこれくらいの温度が丁度いいな﹚
猫舌なのもあるが、今の私にとっては熱すぎずぬるくもなく、じんわりとくる感じかとても良かった。
﹙太めの麺にドロッとしたスープ。やっぱりつけ麺の基本はこんな感じなのか﹚
﹙スープのこの粒々はいわゆる魚粉ってやつかな?﹚
﹙おっ、スープのしたに豚肉が…ご飯は正解だったかな?﹚
さっきまでの暗い脳内は一瞬にしてつけ麺色に染まった。
「いらっしゃいませー」
店員さんが挨拶をしたかと思うと表に出て暖簾を片付け始めた。
﹙あーギリギリだったのか。良かったー﹚
そう思いながら最後に残していた豚肉とスープでご飯を頂く。悪い食事の癖だとわかっているのだが、分かっていてもにやめられない。
「ご馳走さまでしたー」
物静かな店主に声をかけてお店を出る。
﹙さて、まだまだ時間もあるし、どうしよっかなー﹚
空はさっきより暗くなっていた。だが、自転車のペダルは軽くなっていた。
こんな私も食いしん坊な役で出演します。よろしくどうぞ!